ヘーラクレース

表記

 ギリシャ名:Ἡρακλῆς

 ローマ字転写:Herakles

 多くの場合、「ヘーラクレース」とだけ表記される。

性別

 男。

概要

 語源は、「ヘーラーによって有名なる」から。*1

 テバイ生まれである。*2

 ゲリュオネウスを、エリュテイアの島で退治した。*3

 ヒュドラーを撃ちとった。*4

 ネメアの獅子を撃ち殪した。*5

 プロメーテウスの肝臓を喰らった鷲を退治した。*6

 ヘーラクレースは、へべを妻とした。*7

逸話

 ゼウスが、アムピトリュオーンの姿となり、一夜を三倍にし、アルクメーネーと衾を共にすると、アルクメーネーは二人の子供を産んだ。すなわち、ヘーラクレース(父はゼウス)とイピクレス(父はアムピトリュオーン)である。

 ヘーラクレースが八ヶ月の時に、ヘーラーが二匹の蛇を送った。しかし、ヘーラクレースは、両手で蛇を絞め殺した。

 あるいは、アムピトリュオーンが、どちらが自分の子供であるかを知りたくて、蛇を臥所に投げ込み、イピクレスは逃げ、ヘーラクレースはたち塞がったので、イピクレスが自分の子供であると知った。

 ヘーラクレースは、アムピトリュオーンによって戦車を駆ることを、アウトリュコスによって相撲を、エウリュトスによって弓術を、カストールによって武器の使い方を、リノスによって竪琴を教えられた。また、ヘルメースからは剣を、アポローンからは弓と矢を、ヘーパイストスからは黄金の胸当てを、アテーナーからはペプロス(長衣)を得た。

 しかし、ヘーラクレースは、リノスに殴られて怒り、リノスを竪琴で打って殺した。ヘーラクレースは、殺人罪に問われた時に、正当防衛は罪には問われない(ラダマンテュスの法)と主張し、放免された。

 ヘーラクレースは、アムピトリュオーンによって牛飼い場に送られ、そこで養育され、大きさにおいても力においても全てのものにたちまさった。

 ヘーラクレースは一八歳の時、キタイロン山の獅子を退治した。また、ヘーラクレースは、ヘーラクレースを五十日間歓待したテスピアイの王テスピオスの娘五十人と(自分と衾を共にしている娘が常に一人であると思って、)契りを交わした。というのも、テスピオスが、全ての娘がヘーラクレースによって子供を設けることを希望したからである。

 ヘーラクレースは、狩から帰ってくる途中、エルギーノスによって遣わされた使者たちをひどい目に合わせた。すなわち、使者たちの耳と鼻と手を切り取り、縄で頸に結びつけた。ヘーラクレースは、これを貢物としてエルギーノスとミニュアース人に持っていくようにと言った。というのも、エルギーノスはテーバイに軍を進め、テーバイ人が二十年間毎年百頭の牝牛を貢物として送るという誓いでもって休戦していた。憤ったエルギーノスは、テーバイに軍を進めた。すると、ヘーラクレースは、アテーナーから武器を得て、軍の将となり、エルギーノスを殺し、ミニュアース人を敗走させ、二倍の貢物をテーバイ人に払うように強いた。

 ヘーラクレースは、クレオーンより褒美として長女メガラーをもらった。

 ヘーラクレースは、ヘーラーの嫉妬のために、気が狂い、メガラーによって得た子供とイピクレスの二人の子供を火中に投じた。

 ヘーラクレースは、自分自身に追放の判決を下し、テスピオスによって罪を潔められ、デルポイに赴き、どこに居住すべきかを神に問うた。

 その時初めて、ピュートーの巫女は、ヘーラクレースと呼んだ。というのも、ヘーラクレースは、それまで、アルケイデースと呼ばれていた。

 ヘーラクレースは、ティーリュンスに住み、エウリュステウスに十二年間奉仕し、命じられた十の仕事を行い、功業が完成した後に、不死となるであろう、と言われた。*8

 第一の仕事として、ヘーラクレースは、ネメアーの獅子の皮を持ってくることを命じられた。ヘーラクレースはまず、ネメアーに来て獅子を探し出し、弓で射た。しかし、獅子が不死身であることを知って、棍棒を振りかざして追った。獅子が、二つの入り口のある洞窟に逃げ込んだ時、ヘーラクレースは、一方の入り口を塞ぎ、獅子が窒息するまで頸を絞めた。エウリュステウスは、ヘーラクレースの逞しさに驚いて、以後市に立ち入ることを禁じた。

 第二の仕事として、レルネーのヒュドラーを殺すことを命じられた。ヘーラクレースは、イオラーオスを御者として、レルネーに来たりてアミューモーネーの泉の傍にヒュドラーを見出し、火箭を放って外に出ることを余儀なくせしめ、出てくるところを抑えて捕まえた。ヒュドラーは、ヘーラクレースの片方の足に巻きついた。ヘーラクレースは、棍棒をもってヒュドラーの頭を打ったが、なんの効果もあげられなかった。 また、大蟹が、ヘーラクレースの足を噛んで援助した。ヘーラクレースは大蟹を殺し、イオラーオスに援けを求めて呼んだ。イオラーオスは、燃え木でヒュドラーの頭の付け根を焼き、生え出てくるのを止めた。ヘーラクレースは、ヒュドラーの不死の頭は切り離し、エライウースに通ずる道の傍に埋め、重い石をその上に置いた。また、ヒュドラーの胆汁に自分の矢を浸した。しかし、エウリュステウスは、これを十の仕事のうちに数えるべきではないと言った。というのも、ヘーラクレースが、イオラーオスと協力したからである。

 第三の仕事として、ケリュネイアの鹿を生きながらミュケーナイへ持ってくることを命じられた。ヘーラクレースは、その鹿がアルテミスに捧げられていて、その鹿を殺したり傷つけたりすることを好まず、まる一年間、鹿の後を追って歩いた。鹿が疲れ、アルテミーシオンと呼ばれる山に遁れ、そこからラードーン河に行き、この河を渡ろうとしているところを、ヘーラクレースは射て捕えた。しかし、アルテミスが、アポローンとともに、ヘーラクレースに行きあって、ヘーラクレースを責めた。ヘーラクレースは、エウリュステウスが責任者であることを申し立て、アルテミスの怒りを鎮めた。

 第四の仕事として、エリュマントスの猪を生きながら持ってくることを命じられた。ヘーラクレースは、大声で叫びつつ猪を追い、深い雪の中に疲れ果てたところを追い込んで、罠にかけて捕えた。

 ヘーラクレースは、猪狩りに出かける前、ケンタウロスのポロスに歓待せられた。ヘーラクレースが、ケンタウロス族の共有の酒の甕を開けると、香りをかいで、ケンタウロスたちが武装して、ポロスの洞窟にやってきた。ヘーラクレースは、最初に入ってきたアンキオスとアグリオスを追い払い、他の者たちを矢で射て追いかけた。ケンタウロスたちは、ケイローンの所に遁れた。ヘーラクレースは、ケンタウロスたちを矢で射たが、一矢がケイローンの膝にささった。ヘーラクレースは、走りよって矢を抜き、ケイローンが手渡した薬を施した。ケイローンは、傷が不治であり、洞窟の中で死にたいと思ったが、不死であった。そこで、プロメーテウスが、ケイローンの代わりに不死となるべくゼウスに自らを提供したので、ケイローンは死んだ。ポロスは、死体から抜いた矢が手から滑って足にあたり、死んだ。ヘーラクレースは、ポロスを葬り、猪狩りに出かけた。

 第五の仕事として、アウゲイアースの家畜の糞を一日のうちに一人で運び出すことを命じられた。ヘーラクレースは、エーリスの王アウゲイアースの所に来て、エウリュステウスの命令を明かさないで、もし家畜の十分の一をくれるならば一日で糞を運び出そうと言った。ヘーラクレースは、家畜小屋の土台に穴を開け、他の出口から流出口を作っておいて、接して流れているアルペイオスとペーネイオスの流れを引いてきた。しかし、エウリュステウスは、これを十の仕事のうちに入れなかった。というのも、報酬をもらう約束でなされたからである。

 また、アウゲイアースは、これがエウリュステウスの命であることを知って、ヘーラクレースに報酬を与えなかった。審判者が着席した時、アウゲイアースの息子ピューレウスが、父に対して反対の証言をした。アウゲイアースが、怒って、投票が行われる前に、ピューレウスとヘーラクレースにエーリスより立ちのくよう命じた。ヘーラクレースは、デクサメノスの所に来て、デクサメノスが、止むを得ず娘のムネーシマケーをケンタウロスのエウリュティオーンの許嫁にしようとしているのを見出した。ヘーラクレースは、助けを求められ、エウリュティオーンを殺した。

 第六の仕事として、ステュムパーロスの鳥を追い払うことを命じられた。ヘーラクレースは、アテーナーヘーパイストスから得た青銅のガラガラを与えられ、これを打ち鳴らして鳥を驚かし、飛び上がった鳥を射た。

 第七の仕事として、クレータ島の牡牛を連れて来ることを命じられた。ヘーラクレースは、クレータに来て、ミーノースに協力して捕えることを頼んだのに対して、ミーノースは、自分で闘って捕えるようにと答えた。ヘーラクレースは、牡牛を捕獲して、エウリュステウスの所に持って行って見せた後、自由に放ってやった。

 第八の仕事として、ビストーン族の王ディオメーデースの牝馬をミュケーナイに持ち来ることを命じられた。ヘーラクレースは、行をともにする人々とともに海を航して、牝馬の秣桶の世話をしている者たちを圧伏し、牝馬を海へ連れて行った。しかし、ビストーン人が武装して助けに来たので、ヘーラクレースは、ビストーン人と闘い、ディオメーデースを殺し、他の者どもを敗走せしめた。

 第九の仕事として、アマゾンの女王ヒッポリュテーの帯を持って来ることを命じられた。というのも、エウリュステウスの娘アドメーテーが欲しがったからである。ヘーラクレースが、テミスキューラにある港に入港すると、ヒッポリュテーが来て、なんのために来たかを尋ね、帯を与える約束をした。しかし、ヘーラーは、アマゾンの一人に身を変じ、やって来た異邦人は女王をさらって行こうとしていると言いながら群集の中を歩き回った。そこで、アマゾンたちは、武装して、船に向かって殺到した。ヘーラクレースは、ヒッポリュテーを殺し、帯を奪い、他の女たちと闘った後、出航した。

 ヘーラクレースは、テミスキューラにある港に入港する前、志願者の仲間を得て、パロス島に入港した。そこで、船の者たちの中の二人が、ミーノースの息子たちの手にかかって殺された。ヘーラクレースは、憤って、この者たちを殺し、ヘーラクレースの欲する者を誰でも二人殺された者の身代わりに取ることを乞うた。そして、ヘーラクレースは、アルカイオスとステネロスを取って、リュコスの所に来た。リュコスが、ベブリュクス人の王と戦っていたので、ヘーラクレースは、リュコスの味方をして多くの者を殺し、ベブリュクス人の多くの地をさいてリュコスに与えた。

 ヘーラクレースは、アマゾンと闘った後、トロイアに寄港した。ヘーラクレースは、ラーオメドーンの娘ヘーシオネーが、怪物の餌食として、海辺の岩に縛り付けられているのを見て、ラーオメドーンから牝馬をもらえるならば、救ってやろうと言った。ヘーラクレースは、怪物を殺してヘーシオネーを救った。しかし、ラーオメドーンが、報酬を与えることを拒んだので、ヘーラクレースは、トロイアに対して戦いを開くであろうと嚇かしておいて出航した。ヘーラクレースは、アイノスに寄港し、ポルテュスの客となり、ポルテュスの兄弟サルペードーンを射殺した。ヘーラクレースは、タソスに来て、住んでいたトラキア人を征服し、アルカイオスとステネロスに住むように与えた。ヘーラクレースは、トローネーに進み、ポリュゴノスとテーレゴノスが相撲を挑んできたので、相撲をして殺した。

 第十の仕事として、ゲーリュオーンの牛をエリュテイアから持って来ることを命じられた。ヘーラクレースは、エリュテイアに至り、アバース山中に宿った。すると、番犬のオルトスがヘーラクレースに向かって突進してきた。ヘーラクレースは、オルトスを棍棒で打ち、オルトスを助けに来た牛飼いのエウリュティオーンをも殺した。ゲーリュオーンは、アンテムース河畔に牛を追い去りつつあるヘーラクレースに追いつき、戦いを交え、射られて死んだ。

 ヘーラクレースは、エリュテイアに至る前、ゲーリュオーンの牛を目指してヨーロッパを通過して多くの野獣を殺し、リビアに足を踏み入れ、タルテーソスに来り、旅の記念として、ヨーロッパとリビアの山上に向かい合って二つの柱を建てた。ヘーラクレースは、その旅の間に、太陽神に照りつけられたので、神に向かって弓を引きしぼった。神は、ヘーラクレースの剛気に感嘆し、ヘーラクレースに黄金の盃を与えた。ヘーラクレースは、黄金の盃に乗ってオーケアノスを渡った。

 ヘーラクレースは、ゲーリュオーンを殺した後、牛を黄金の盃に乗せ、タルテーソスに渡航し、太陽神に盃を返した。ヘーラクレースは、リギュスティーネーに来ると、ポセイドーンの息子イアレビオーンとデルキュノスが牛を奪わんとしたので、二人を殺した。ヘーラクレースは、ヘーパイストスに牛を託し、一頭の牡牛(レーギオンで破り遁れ、それをエリュモイ人の王、ポセイドーンの息子エリュクスが自分の家畜群の中に紛れ込ませた)を探索に急いだ。ヘーラクレースは、相撲でエリュクスに勝てなければ牡牛を与えられないので、相撲で三度勝って、エリュクスを殺し、牡牛を得て、他の牛とともにイオニア海へと追って行った。しかし、ヘーラーが牛に虻を送り、牛はトラーキアの山々の麓でちりぢりとなった。ヘーラクレースは、牛を追いかけ、一部部分は捕えてヘレスポントスに連れて行ったが、一部分は残されて野生となった。ヘーラクレースは、ストリューモーン河を責め、岩で塞いで航行ができないようにした。ヘーラクレースがエウリュステウスに牛を与えると、エウリュステウスは、牛をヘーラーに犠牲に捧げた。

 第十一の仕事として、ヘスペリスから黄金の林檎を持ってくるように命じられた。というのも、仕事が八年と一ヶ月で完遂された時、エウリュステウスは、第二と第五の仕事を除外した。ヘーラクレースは、アトラースの所に来た時、プロメーテウスに従い、アトラース蒼穹を引き受けた。アトラースヘスペリスたちから三つの林檎を取って来て、ヘーラクレースの所にやって来た。アトラースは、蒼穹を担うことを厭ったが、ヘーラクレースは、謀を用いてアトラースの肩に天空を置いた。というのも、円座を頭に乗せるまで天空を引き受けてくれと言った。あるいは、ヘーラクレースは、黄金の林檎の番をしている蛇を殺し、林檎をもいだ。ヘーラクレースは、林檎をエウリュステウスに与えたが、エウリュステウスは林檎をヘーラクレースに贈物とした。ヘーラクレースからアテーナーが林檎を受け取り、元に還した。というのも、林檎をどこにおくのも法に反していたからである。

 ヘーラクレースは、アトラースの所に来る前、エケドーロス河にやってきた。そしてキュクノスがヘーラクレースに一騎打を挑んだが、両人の真中に雷霆が投げられて、戦さを解いた。ヘーラクレースは、イリュリアーを徒歩で通って、エーリダノス河へと急いだ。ゼウステミスとの間に生まれたニュムペーたちは、ヘーラクレースにネーレウスを教えた。ヘーラクレースは、ネーレウスが眠っているところを捕え、どこに林檎とへスペリスたちがいるかを教わるまで放さなかった。ヘーラクレースは、教わってからリビアを通り過ぎた。リビアの王アンタイオスは、異邦人を強いて相撲をさせて殺していた。ヘーラクレースは、アンタイオスと相撲することを強いられたので、両腕で抱えて高々と差上げ、粉砕して殺した。ヘーラクレースは、リビアの後にエジプトを通過した。エジプトの王ブーシーリスは、ある神託に従って異邦人をゼウスの祭壇に供した。そこでヘーラクレースも捕えられて祭壇へと運ばれたが、ヘーラクレースは、縄目を破って、ブーシーリスとその子アムピダマースを殺した。ヘーラクレースは、アジアを通って、テルミュドライに寄り、一人の牛追いの一方の牛を車から外して犠牲にし、飲み食いした。ヘーラクレースは、アラビアに沿って進んでいる時にエーマティオーンを殺した。ヘーラクレースは、リビアを通って外界に進み、へーリオスから盃を受取って向かい側の大陸に渡り、プロメーテウスの肝臓を食らっている鷲をカウカサス山上で射落とした。そしてヘーラクレースは、プロメーテウスの代わりにゼウスケイローンを呈した。

 第十二の仕事として、地獄(ハーデース)からケルベロスを持ってくることを命じられた。ヘーラクレースがプルートーン(ハーデース)にケルベロスを求めた時、プルートーンは、ヘーラクレースの持っている武器を使わないで圧伏して連れ出るように命じた。ヘーラクレースは、アケローンの門で発見して、胸当てをつけ、獅子の皮で身を蔽い、犬の頭を両手で抱き、尾にある竜に噛まれたが、いうことをきくまでケルベロスをつかみしめることをやめなかった。ヘーラクレースは、エウリュステウスケルベロスを見せた後、再び地獄に持って行った。

 ヘーラクレースは、プルートーンにケルベロスを求める前、ケルベロスを目指して出発しようとして、秘教に入会させてもらう目的でエウモルポスの所へ来た。ヘーラクレースは、当時は異邦人は入会を許さなかったので、ピュリオスの養子となって入会した。しかし、ヘーラクレースは、ケンタウロスの殺戮から身を潔められていなかったので、エウモルポスに潔められ、入会を許された。ヘーラクレースは、タイナロンに来り、この入り口から地獄へ降りた。諸霊がヘーラクレースを見た時、メレアグロスメドゥーサ以外は逃げた。ヘーラクレースは、メドゥーサに対して刀を抜いたが、ヘルメースから、それは空しい姿に過ぎないことを教わった。ヘーラクレースは、地獄の門の近くに来て、テーセウスと縛られたペイリトゥースとを見出した。ヘーラクレースは、テーセウスの手を取って醒ましたが、ペイリトゥースを立ち上がらせようとすると、大地が動揺したので、ペイリトゥースを放した。ヘーラクレースは、霊魂に血を供しようと欲し、地獄王の牝牛の一頭を殺した。しかし、牝牛を飼っていたメノイテースがヘーラクレースに相撲の挑戦をした。ヘーラクレースは、身体の真ん中をつかまれ、脇骨を砕かれた。*9*10

 仕事の後、ヘーラクレースは、テーバイに来て、メガラーをイオラオスに与え、オイカリアーの支配者エウリュトスが、自分と自分の息子たちを弓術で負かした者に娘のイオレーを妻として提供しているのを知った。ヘーラクレースは、弓術で彼らを負かしたが、結婚はできなかった。というのも、エウリュトスの息子イーピトスは、ヘーラクレースにイオレーを与えようと言ったが、エウリュトスと他の息子たちは、ヘーラクレースがまた生まれた子供を殺しはしないかと心配だと言って、拒否したからである。

 暫く後に、アウトリュコスによってエウボイアから牛が盗まれた時、エウリュトスは、ヘーラクレースの仕業であると思ったが、イーピトスは、それを信ぜず、ヘーラクレースの所に来て、共に牛を探すようにと誘った。ヘーラクレースは、イーピトスを歓待したが、再び気が狂って、ティーリュンスの城壁からイーピトスを投げた。ヘーラクレースは、殺人の穢れを潔めてもらおうと、ピュロス人の支配者ネーレウスの所に来た。しかし、ネーレウスは、エウリュトスへの友情のためにヘラクレスを拒否した。ヘーラクレースは、アミュクライに来て、デーイポボスによって潔められた。

 ヘーラクレースは、イーピトスを殺したためにひどい病気にとりつかれて、デルポイに至り、病気から遁れる法を尋ねた。ピュートーの巫女がヘーラクレースに神託を与えなかったので、ヘーラクレースは、神殿を掠奪し、三脚を持ち去って自分の神託所を建てようと思った。アポローンがヘーラクレースと闘っている時、ゼウスが彼らの間に雷霆を投じた。彼らが別れた時、ヘーラクレースは、神託を得た。すなわち、自分の身が売られ、三年間奉公し、殺人の償いとしてエウリュトスにその代価を支払えば病を除くことができるであろう。神託が与えられた後、ヘルメースがヘーラクレースを売った。ヘーラクレースを、イアルダネースの娘、リューディアー人の女王オムパレーが買った。エウリュトスはもたらされた代価を受け取らなかったが、ヘーラクレースは、エペソスの近傍にいたケルコープスを捕らえて縛り、また、通りかかる外国人に掘ることを強いていたシュレウスとその娘クセノドケーを根ごとその葡萄の木を焼いた後殺した。

 ヘーラクレースは、ドリケー島の立ち寄って。イカロスの死骸が海岸に打ち上げられているのを見て葬り、ドリケー島をイーカリアーと呼んだ。ダイダロスは、お礼にピサにヘーラクレースの像を建てた。ヘーラクレースは、像が夜間に生きているものと誤って、石を投げつけた。

 ヘーラクレースは、奉公の後に、病を免れ、優れた勇者の志望者からなる軍勢を集めて、十八艘の五十櫓の船をもってイーリオン(トロイア)に向かって航海した。ヘーラクレースは、イーリオンに着いて、他の英雄たちとともに市に向かって進んだ。ラーオメドーンは、多勢をもって船を襲ったが、ヘーラクレースの軍に追い払われて包囲された。包囲となって、最初にテラモーンが城壁を破って市中に入り、ヘーラクレースが続いた。テラモーンは近くにある石を集めた。ヘーラクレースが何をしているのかと尋ねると、テラモーンは、勝利者ヘーラクレースの祭壇を築いているのだと言った。ヘーラクレースは、これを賞美して、市を攻略した時、ラーオメドーンの娘ヘーシオネーを賞としてテラモーンに与えた。そしてヘーシオネーに誰でも好きな者を俘虜の中から連れて行くことを許した。ヘーシオネーが兄弟のポダルケースを選んだ時に、先ず彼が奴隷となって、それからヘーシオネーが何かポダルケースの代償を払って後彼を得なければならないと言った。そこでヘーシオネーは頭からヴェールを取って、ポダルケースが売られる時にその代償として払った。

 ヘーラクレースがトロイアから海を航行している時、ヘーラーがひどい嵐を送った。

 ヘーラクレースはコースに向かって船を進めた。コース人は石を投げて船を近づけるのを阻んだが、ヘーラクレースは、夜間にコースを取り、エウリュピュロス王を殺した。ヘーラクレースは、戦闘の間にカルコードーンに傷つけられたが、ゼウスがカルコードーンを奪い去ったので、何らの害を受けなかった。

 ヘーラクレースは、コースを破壊してから、アテーナーの仲介でプレグライに来り、ギガースたちを打ち破った。(詳細はギリシャ神話② - ギリシャ・ローマ神話を参照。)

 その後、ヘーラクレースは、アルカディアーの軍勢を集め、ヘラスの一流の人々の中よりの志望者を伴い、アウゲイアースに向かって軍を進めた。アウゲイアースは、ヘーラクレースが戦さの準備をしていると聞いて、エウリュトスとクテアトスをエーリス人の将に任じた。エウリュトスとクテアトスは、ヘーラクレースが軍旅の間に病むこととなったために休戦したが、ヘーラクレースが病気であることを知って、ヘーラクレースの軍を襲い、多くの者を殺した。ヘーラクレースは、その時には退いだが、第三イストモス祭が行われて、エーリス人がエウリュトスとクテアトスを送った折に、ヘーラクレースは、クレオーナイで待伏せして彼らを殺し、エーリスに軍を進めて市を陥れた。そして、ヘーラクレースは、アウゲイアースとその息子たちを殺し、ピューレウスを連れ戻して彼に王国を与えた。また、ヘーラクレースは、オリュムピア競技を設け、ペロプスの祭壇を築き、十二神の六祭壇を建てた。

 エーリス攻略の後、ヘーラクレースは、ピュロスに進軍し、その市を陥れ、ペリクリュメノスを殺した。また、ヘーラクレースは、ネーレウスとネストールを除くネーレウスの息子たちを殺した。ヘーラクレースは、戦さの間にピュロス人を援助したハーデースをも傷つけた。

 ピュロス攻略の後、ヘーラクレースは、ヒッポコオーンの息子たちを罰せんと欲して、ラケダイモーンに向かって軍を進めた。というのも、ヒッポコオーンの息子たちが、ネーレウスに味方し、リキュムニオスの息子を殺したからである。ヘーラクレースは、アルカディアーに来り、ケーペウスとケーペウスの二十人の息子たちに味方になることを乞うたが、ケーペウスは、テゲアーを留守にするとアルゴス人が攻めて来はしないかと心配して、遠征を断った。ヘーラクレースは、アテーナーから青銅製の壺の中に入っているゴルゴーンの毛髪を得て、もし軍勢が攻め寄せて来たならば、その髪を三度城壁から差し上げ、前を見ないでいるならば、敵は敗走するであろうと言って、ケーペウスの娘ステロペーに与えた。そこでケーペウスは、息子たちとともに軍を進めた。そして戦塵の間に、ケーペウスとその息子たちは死に、イーピクレースもなくなった。ヘーラクレースは、ヒッポコオーンとその息子たちを殺し、市を制圧し、テュンダレオースを連れ戻して彼に王国を与えた。

 テゲアーを通る時、ヘーラクレースは、アレオスの娘であるとは知らずにアウゲーを犯した。

 ヘーラクレースは、カリュドーンに来て、オイネウスの娘デーイアネイラに求婚し、彼女を争って牡牛の姿をしていたアケローオスと格闘して、その一方の角を折った。そしてヘーラクレースは、デーイアネイラと結婚した。

 ヘーラクレースは、カリュドーン人とともにテスプローティアー人に対して軍を進め、エピュラー市を攻略した。ヘーラクレースは、エピュラー市の王ピューラースの娘アステュオケーと交わって、トレーポレモスの父となった。ヘーラクレースは、テスピオスに人を派し、七人の子供は自分の下に留め、三人はテーバイに、残りの四十人は植民地を建設するためにサルディニア島に送るようにと言った。

 オイネウスのところで宴を開いている間に、アルキテレースの息子エウノモスが水をヘーラクレースの手に注いでいる時に、ヘーラクレースは、指の節で打ってエウノモスを殺してしまった。しかし、アルキテレースは、事件が故意になされたものでないので許そうとしたが、ヘーラクレースは、法に従って追放されることを望み、トラーキースのケーユクスの所に立ち去る決心をした。ヘーラクレースは、デーイアネイラを伴ってエウエーノス河に来た。この河にケンタウロスのネッソスが坐っていて、彼の正徳によって神々より渡しを授かったと称し、報酬をとって通行人を渡していた。それでヘーラクレースは、自分で河を渡ったが、デーイアネイラを渡してくれるようにとネッソスに委せた。ところがネッソスは、渡している間にデーイアネイラを犯そうとした。デーイアネイラの叫びを聞いて、ヘーラクレースは、ネッソスが河から出てくるところを心臓を射た。ネッソスは、まさんに死なんとするときに、デーイアネイラを呼び寄せて、ヘーラクレースに対して媚薬が欲しいならば、自分が地上に落とした精液と鏃の傷から流れ出る血とを混ずるがよいと言った。デーイアネイラは、その通りにして、自分の身につけて蔵った。

 ヘーラクレースは、ドリュオプス人の地を通っている時の食糧がなくなって、牛追いのテイオダマースに出遭い、その片方の牛を外し、殺して食った。ヘーラクレースは、トラーキースのケーユクスの所に来た時、彼に迎えられてドリュオプス人を征服した。

 ヘーラクレースは、ドーリス人の王アイギミオスの味方となって戦った。というのも、ラピテースたちが土地の境界に関してコローノスを将としてアイギミオスと戦い、アイギミオスは、囲まれて、土地を分ち与える条件でヘーラクレースに助けを求めた。ヘーラクレースは、援助して、他の者とともにコローノスを殺し、全土を自由にしてアイギミオスに与えた。ヘーラクレースは、ドリュオプス人の王ラーオゴラースがアポローンの神域で宴を張っているところを、その息子たちと一緒に殺した。イトーノスを通過していると、キュクノスがヘーラクレースに一騎打ちを挑んだ。ヘーラクレースは、そこで矛を交え、キュクノスをも殺した。オルメニオンに来た時に、アミュントール王が武力に訴えてヘーラクレースの通過を許そうとしなかった。しかし、ヘーラクレースは、通行の邪魔をされて、アミュントール王をも殺した。

 ヘーラクレースは、トラーキースに着いて、エウリュトスに復讐せんものと、オイカリアーを襲うべく軍を集めた。ヘーラクレースは、アルカディアー人、メーリス人、ロクリス人を味方として、エウリュトスをその息子たちとともに殺し、市を取った。ヘーラクレースは、ヒッパソス、アルゲイオス、メラースを葬り、市を掠奪し、イオレーを捕虜としてひいて行った。ヘーラクレースは、エウボイアのケーナイオン岬に船を泊めて、ケーナイオンのゼウスに祭壇を築き、犠牲を捧げようと思って、使者のリカースに美々しい衣服を取りにトラーキースにやった。デーイアネイラは、ヘーラクレースからイオレーのことを聞き、イオレーをよけいに愛しはしまいかと心配し、ネッソスの流血を本当に媚薬だと信じて、これを(ヘーラクレースの)下着に塗った。ヘーラクレースは、これを着て犠牲を行なった。ところが、下着が暖められるとともにヒュドラーの毒が皮膚を腐食し始めた。ヘーラクレースは、リカースを持ち上げてボイオーティアーの岬から投げ下ろし、肉にくっついてしまった下着を引き剥がした。ヘーラクレースは、このような不幸なさまで船でトラーキースに運ばれた。デーイアネイラは、事件を知って自ら縊れた。ヘーラクレースは、ヒュロスに成人してからイオレーを妻とすることを命じ、オイテー山に赴き、そこに火葬壇を築き、その上に登って火をつけることを命じた。誰もそれを行うことを欲しないでいる時、ポイアースが羊の群れを探して通りかかり、火をつけた。ヘーラクレースは、ポイアースに弓を与えた。火葬壇が燃えている間に雲がヘーラクレースのもとに来て、雷鳴とともにヘーラクレースを空へと運び上げた。そこで不死を得て、へーラーと仲直りし、へーベーを娶った。*11

系譜

後裔

メガラーとの子*12
  • テーリマコス
  • クレオンティアデース
  • デーイコオーン
アウゲーとの子*13
  • テーレポス
アステュオケーとの子*14
  • トレーポレモス
デーイアネイラとの子*15
  • ヒュロス
  • クテーシッポス
  • グレーノス
  • オネイテース
へーべーとの子*16
  • アレクシアレース
  • アニーケートス
オムパレーとの子*17
  • アゲラーオス
カルキオペーとの子*18
  • テッタロス
エピカステーとの子*19
  • テスタロス
パルテノペーとの子*20
  • エウエーレース
アステュダメイアとの子*21
  • クテーシッポス
アウトノエーとの子*22
  • パライモーン

*23

プロクリスとの子
  • アンティレオーン
  • ヒッペウス
パノペーとの子
  • トレプシッパース
リューセーとの子
エピライスとの子
  • アステュアナクス
ケルテーとの子
  • イオベース
エウリュビアーとの子
  • ポリュラーオス
パトローとの子
  • アルケマコス
メーリネーとの子
  • ラーオメドーン
クリュティッペーとの子
  • エウリュカピュス
エウボーテーとの子
  • エウリュピュロス
アグライエーとの子
  • アンティアデース
クリューゼーイスとの子
  • オネーシッポス
オレイエーとの子
  • ラーオメネース
リューシディケーとの子
  • テレース
メニッピスとの子
  • エンテリデース
アンティッペーとの子
  • ヒッポドロモス
エウリュ......との子
  • テレウタゴラース
ヒッポーとの子
  • カピュロス
エウボイアとの子
  • オリュムポス
ニーケーとの子
  • ニーコドロモス
アルゲレーとの子
エクソレーとの子
  • エリュトラース
クサンティスとの子
  • ホモリッポス
ストラトニーケーとの子
  • アトロモス
イーピスとの子
  • ケレウスタノール
ラーオトエーとの子
  • アンティポス
アンティオペーとの子
  • アロピオス
カラメーティスとの子
  • アステュピエース
ピューレーイスとの子
  • ティガシス
アイスクレーイスとの子
  • レウコーネース
アンティアとの子
  • ......
エウリュピュレーとの子
  • アルケディコス
エラトーとの子
  • デュナステース
アソーピスとの子
  • メントール
エーオーネーとの子
  • アメーストリオス
ティーピュセーとの子
  • リュンカイオス
オリュムプーサとの子
  • ハロクラテース
へリコーニスとの子
  • パリアース
ヘーシュケイエーとの子
  • オイストロブレース
テルプシクラテーとの子
  • エウリュオペース
エラケイアとの子
  • ブーレウス
ニーキッペーとの子
  • アンティマコス
ピュリッペーとの子
プラークシテアーとの子
  • ネーポス
リューシッペーとの子
  • エラシッポス
トクシクラテーとの子
  • リュクールゴス
マルセーとの子
  • ブーコロス
エウリュテレーとの子
  • レウキッポス
ヒッポクラテーとの子
  • ヒッポジュゴス

*1:ギリシア神話』p217

*2:『神統記』p69

*3:『神統記』p40

*4:『神統記』p43

*5:『神統記』p45

*6:『神統記』p68

*7:『神統記』p118

*8:ギリシア神話』p86~89

*9:ギリシア神話』p89~103

*10:ギリシアローマ神話』p196~200

*11:ギリシア神話』p103~111

*12:ギリシア神話』p89,112

*13:ギリシア神話』p108,p113

*14:ギリシア神話』p108,113

*15:ギリシア神話』p112

*16:ギリシア神話』p111

*17:ギリシア神話』p112

*18:ギリシア神話』p112

*19:ギリシア神話p112

*20:ギリシア神話』p112

*21:ギリシア神話』p113

*22:ギリシア神話』p113

*23:ギリシア神話』p111,112によると、以下テスピオスの50人の娘たちである。ただし、一部欠損(......)が見られる。

*24:リューセーの子ではない可能性もある。