テーセウス

表記

 ギリシャ語:Θησεύς

 ローマ字転写:Theseus

 多くの場合、「テーセウス」とだけ表記される。

性別

 男。

概要

逸話

 テーセウスは、成長した時例の岩を押しのけて、サンダルと刀とを取りあげ、徒歩でアテーナイへと急いだ。そして悪人どものはびこっていたこの道を掃討した。というのは、先ず最初にペリペーテースをエピダウロスで殺した。この男は足が弱かったので鉄棒を手にしており、それによって通行人を殺したからである。この棒をペリペーテースより奪ってテーセウスは持って歩いた。第二にしにすいを殺した。この男は松曲男(まつまげ)と綽名されていた。というのは、コリントスの地峡に居を構えて、通行人に松の木を曲げさせて、じっと持たせたからである。彼らは、しかし、力足らずして、これをなし得ず、木によって投げあげられて、哀れにも命を失った。この方法でテーセウスもまたシニスを殺した。

 第三番目にクロミュオーンにおいて、それを育てた老婆の名をとってパイアと呼ばれた牝の猪を殺した。第四にコリントス人スケイローンを殺した。これはメガラの地において彼の名によってスケイローニダイと呼ばれる岩を占拠し、通行人に自分の足を洗わせて、洗っている中に彼らを深みに投げ入れ、巨大な亀の餌食としていた。テーセウスはスケイローンの足を引っつかんで、海に投げ込んだ。第五にエレウシースにおいてケルキュオーンを殺した。これは通行人に相撲を強いて、相撲っている間に殺したのである。テーセウスはケルキュオーンを高く持ちあげ、大地に投げつけて微塵とした。第六にダマステースを殺した。これは道の傍に家を持っていて、一つは小さな、一つは大きな二つのベッドをしつらえ、通行人を客に招じ、小さい者は大きいベッドに寝かせてベッドと同じ大きさになるように槌で打ち延し、大きい者は小さいほうに寝かせてベッドの外にはみ出ている身体の部分を鋸で引き切ったのである。

 かくてテーセウスはこの道を掃蕩してアテーナイに来た。メーデイアはその時アイゲウスの妻となっていたが、彼に対して悪企みを計り、テーセウスがアイゲウスに対して陰謀を企てているから用心するようにと説いた。アイゲウスは自分の子供とは知らずに、テーセウスを恐れて、マラトーンの牡牛退治にやった。しかしテーセウスが牛を殺した時に、アイゲウスはその同じ日にメーデイアより毒薬を受け取って、彼に供した。しかしまさにその飲物がテーセウスに供せられんとした時に、テーセウスは父にあの刀を贈物にした。アイゲウスはこれを認め、テーセウスの手より盃を叩きのけた。そしてテーセウスは父に認められ、陰謀を知ってメーデイアを追い払った。

 そしてテーセウスはミーノータウロスへの第三番目の貢物の中に加えられた。あるいは、自ら進んで身を供した。その船が黒い帆を持っていたので、アイゲウスは子供に、もし生きて帰ったならば白い帆を船に張るように命じた。クレータに来た時、アリアドネーはテーセウスに恋心を抱き、もし自分をアテーナイに連れて行って妻としてくれるならば、援助しようと申し出た。テーセウスは誓いをしてこれに同意したので、アリアドネーはダイダロスに迷宮の出口を教えるように頼んだ。ダイダロスの教えに従ってテーセウスが入る時に糸玉を与えた。テーセウスはこれを扉に結びつけて、引きつつ内に入った。ミーノータウロスを迷宮の一番端の部分に見出し、これを拳で打って殺し、糸玉を引きつつ再び外に出た。そして夜の間にアリアドネーおよび子供たちとともにナクソスについた。その地でディオニューソスアリアドネーに恋して、彼女を奪い、レームノスに連れて行って交わった。

 テーセウスはアリアドネーのために悲しんで港に着く時船に白い帆を張るのを忘れた。アイゲウスアクロポリスよりその船が黒い帆を持っているのを見て、テーセウスが死んだものと思い、身を投じて世を去った。テーセウスはアテーナイの統治権を継承し、その数五十人のパラースの子供らを殺した。同じくテーセウスに反対せんとした者は彼に殺され、彼は全支配権を一人で掌握した。

 テーセウスはヘーラクレースとともにアマゾーンに対して遠征し、アンティオペーを、あるいはメラニッペー、あるいはヒッポリュテーを奪った。それでアマゾーンたちはアテーナイに軍を進めた。そしてアレースの丘の付近に陣を張った彼女らをテーセウスはアテーナイ人とともに破った。このアマゾーンより一子ヒッポリュトスを得たにもかかわらず、その後デウカリオーンよりパイドラーを得た。パイドラーとの結婚が行われている最中に前にテーセウスと結婚したアマゾーンがアマゾーンたちとともに武装して現れ、宴に集った客人たちを殺そうとした。しかし彼らは急ぎ扉を閉じ、彼女を殺した。あるいは、彼女は戦闘の間にテーセウスの手にかかって殪れた。パイドラーはヒッポリュトスに恋し、自分と交わらんことを乞うた。しかしヒッポリュトスはすべての女性を嫌っていたので、情交を避けた。パイドラーは、ヒッポリュトスが父に訴えることを恐れ、自分の寝室の扉を破り、衣を引き裂き、ヒッポリュトスが暴行を働いたと偽りの訴えをなした。テーセウスはこれを信じて、ポセイドーンにヒッポリュトスが滅ぼされんことを祈った。神は、ヒッポリュトスが戦車に乗って走りつつ海辺を駕している時に、浪間より牡牛を放った。馬が恐れ騒いだので、戦車は粉微塵となった。そして手綱にからまれてヒッポリュトスは引きずられて死んだ。しかしパイドラーは自分の恋情が露見した時に、自ら縊れた。

 テーセウスは、ペイリトゥースがケンタウロスに対して戦った時に、ペイリトゥースの味方をした。というのは、ペイリトゥースがヒッポダメイアに求婚した時に、ケンタウロスたちを、彼女の親族であるというので馳走した。しかし酒に慣れていなかった彼らは、鯨飲して酔い、花嫁が連れて来られた時に、彼女を犯そうと試みた。しかしペイリトゥースはテーセウスとともに武具に身をかためて闘い、テーセウスは彼らの多くを殺した。

 カイネウスケンタウロスとの戦闘においても負傷をものともせず、多くのケンタウロスを殺したが、残りのケンタウロスたちが彼を取り巻き、樅の木で打って地中に彼を埋めてしまった。

 テーセウスはペイリトゥースとゼウスの娘と結婚する協定をなし、自分のためにはスパルタより十二歳になったヘレネーを彼とともに奪い、ペイリトゥースのためには、ペルセポネーを妻に得んものと、冥府に下った。ディオスクーロイがラケダイモーン人およびアルカディアー人とともにアテーナイを攻略し、ヘレネーおよび彼女とともにアイトラーを捕虜として連れ去った。しかしデーモポーンとアカマースは遁れた。ディオスクーロイはメネステウスを連れ戻してアテーナイの支配権を彼に与えた。テーセウスはペイリトゥースとともに冥府に赴き、だまされた。そしてハーデースは彼らを大いに歓待するかのごとく装って、先ず忘却の椅子に坐るようにと言った。この椅子に彼らはくっついてしまい、大蛇によって巻きつけられた。それでペイリトゥースは地獄に縛されて留まったが、テーセウスはヘーラクレースが連れ戻って、アテーナイに送った。そこよりテーセウスはメネステウスに追われ、リュコメーデースのもとに来た。リュコメーデースはテーセウスを深い穴に投げ落として殺した。*1

系譜

  • アイトラー

兄弟、姉妹

後裔

アンティオペー、あるいは、メラニッペー、あるいは、ヒッポリュテーとの子*2
  • ヒッポリュトス
パイドラーとの子*3
  • アカマース
  • デーモポーン

*1:ギリシア神話』p170,173~178

*2:ギリシア神話』p176

*3:ギリシア神話』p176